「リスク回避の第一歩。企業アカウント一覧を公開しよう〜NHKのツイッタ活用事例」

ツイッターの企業アカウントでは、担当者は実名を公開すべき?」こういった問合せを受けることが多くなってきた。実名公開すると、
・企業の透明性を高める
・顔が見えることで対話する人に安心感を与える
・担当者が責任ある発言をする(発言の信頼性が増す)
といったメリットが期待でき、総じて公開するべきとの雰囲気を感じる。確かに、ソフトバンク孫社長が匿名で発言しても、今ほどのインパクトはないだろう。経営者以外にも営業担当者や人事担当者など「面識のない人と知り合うことが大切な職種」の人々の実名をホームページで掲載する例を多く見かける。事前にその人の発言を読むことで、初対面とは思えない打ち解けた交流が可能になることもある。
反面、
・担当者が退職したり、変更になった場合に連続性が失われる
・担当者に任命されたため、不本意ながらプライバシーの公開を強制させられる。

といったネガティブな問題もある。実名・顔出しに抵抗がないと言われる米国でも、前稿「企業 Twitter アカウントの整理法〜 AT&T の取り組み」で紹介したAT&Tツイッターアカウントは、カスタマーサポートのアカウントだけが実名。それ以外は「組織名」となっている。透明性で名高いzapposでも、実名顔出し社員ツイッターアカウントは62%だ。もちろん会社として強要もしていない。
上記の得失を配慮して、用途によって使い分けることが求められる。
経営者とともに、全員顔出し・実名の職業がある。アナウンサーだ。こちらツイッターアカウントをもつアナウンサーのリストが確認できる。このような人材の宝庫であるテレビ局の運用方法を見てみよう。国内のテレビ局で最も積極的にツイッターを活用しているのはNHKだ。twinaviでテレビ局アカウントのフォロワー数ランキングでは、1位@NHK_PR、2位@NHK_onairとなっている。

【図 テレビ部門のツイッターアカウント一覧(twinavi)】
公式アカウントも実に25件に上る。

【図 NHKの公式アカウント一覧】
これらのアカウントのうち、アカウント名にも名前が含まれ、アナウンサーが実名でツイートしているのは、堀潤アナウンサーのアカウント@nhk_HORIJUNだけだ。タイムラインは大変フレンドリーだ。

【図 堀潤アナウンサーのツイッターアカウント】
「今週もおつかれさまでした。今日のネクタイ、ツートンカラーでかわいかったです。」といったツイートに、
「えへへ照。ありがとうございます♪(´ε` )!実は青も入ってたんですよー!」
などといったNHKらしくない、柔らかいやり取りもある。人柄も推し量れる楽しいアカウントだ。今年3月に開始したニュース番組「Bizスポ」とともに開設アカウントで、1日平均10件程度のツイートがなされている。フォロワー数は1,800人程度だ。スポーツニュース担当ということで、柔らかめのツイートが生活者にも受け入れやすいだろう。自己紹介には部署や担当番組がしっかり書き込まれている。
この他にも、道傳愛子解説委員の@nhk_asianvoicesも実名だ。自己紹介に番組「NHK WORLDの公式アカウント」との記載がある。主に英語で日本の代表的なニュースを不定期にツイートしている。この他のNHKのアナウンサーが実名アカウントを用意している例は確認できなかった。明確な方針のもと、局内で運用ルールが確立し、徹底されているのだと考えられる。一方、巧妙な切り返しで有名なNHK_PRは広報担当のアカウント。フォロワー数は6万人を超える。1人でツイートしているが実名は非公開だが、フォロワーは個性をはっきり読み取れる。実名でなくても、しっかり個性を発揮できる証明にもなっている。同様に、@nhk_roboconや@nhk_bizspoなどの番組公式アカウントでも、特定の番組スタッフ1名が「組織名」で積極的に視聴者との交流を試みている。第二、第三の@NHK_PRが着々と育っている。しっかりと実名アカウントと組織名アカウントを使い分けながら、ツイッターへの取り組みを深化させている。
民放局はどうだろう。多くの女子アナがツイッターアカウントを持っている。1万人近くフォロワーがあるアカウントも少なくない。TBSはNHKに続いて積極的にツイッターに取り組んでいる放送局だ。全国ネットの民放局の中では、唯一公式アカウント一覧も掲載している。しかし表中、アナウンサーのアカウントは掲載されていない。

【図 TBSの公式アカウント一覧】
実際にはTBSのアナウンサーのアカウントは多数存在する。アカウントの自己紹介では、実名・顔出しは一貫しているが、アナウンサーによってTBSとの関係をプロフィールに記載していたり、いなかったりする。特に明確なルールは設定されていないようだ。図は竹内香苗アナウンサーのものだが、自己紹介の記述がない。

【図 竹内アナウンサーのツイッターアカウント】
ツイート内容を読めば、テレビ番組や仕事のことを数多く発言されている。読者は本人のアカウントと判別できるので問題ないのかもしれない。しかし、今後なりすましアカウントが発生した場合、読者の錯誤を招くこともあるだろう。いわれのない風評被害を受けるリスクも考えられる。
社員が私的にソーシャルメディアに参加することを企業が妨げることは出来ない。しかし、いかに私的とはいえ、会社自身、取引先、会社が提供する製品(サービス)に関係することを社員の立場で発言する場合には、一定のルールを設け社員を教育することが、企業や製品(サービス)のブランド、そして社員自身を守るために大切である。同時に、世間一般に対して、企業の社員への指導方針や利用目的を表明し、アカウントの一覧を公開することで、なりすましアカウントに対する錯誤を抑制できる。