インフルエンサー評価のスタンダード〜Klout Scoreってなに?

HootSuiteでは、ツイート左のサムネイルをクリックすると、そのアカウントのプロフィールをチェックできる。

【図 HootSuiteでプロフィールをチェック】
フォロワー数、フォローイング数、更新回数の下に[Klout]という表示が確認できる。
Klout Scoreは、「オンラインでのインフルエンス力の計測指標 」だ。つまり、この数字が大きければオンライン上での「インフルエンス力」がより大きいアカウントであることを意味する。前稿「クチコミを味方につける企業、恐れる企業―インフルエンサーを探すことから始めよう」で紹介したとおり、バージンアメリカ航空がタイアップ・キャンペーンも展開している。この他にもcotweetを初め、450を超えるパートナーがKloutのAPIを活用している。
 対象はtwitterアカウントに限定されるが、 現在、最も広く用いられているインフルエンス力の評価指標ではないだろうか? フォロワー数が多ければ、きっとKlout Scoreも大きくなるだろう。現在フォロワー数世界一のアカウントは、ブリトニー・スピアーズだ。その数は540万人を超える。Klout Scoreを調べると"80"とでた。
約50万人のフォロワーをもつ孫正義@masasonは"86"、フォロワー数は7万人のコカコーラ@cocacolaは"91"だ。当然だが、単純なフォロワー数から求められているものではないことが分かる。

【図 コカコーラのKlout Score】
では、どのような考えでスコアを求めているのだろうか?図にあるとおり、以下の(1)-(3)の3つの評価指標が元になっている。これらを求めるのに、25種類を超えるパラメータを活用しているらしい。ナビゲーションバーから"Score Analysis"というタグをクリックして遷移するページで、其々評価指標の主な中間値(各4種類)が確認できる。
(1)True Reach(フォロワーとの意味のある対話ができているか?)
・主なパラメータ
フォロワー数
親密なフォロワー数
フォロワーの@リプライ率
フォロワーのリツイート
これ以外に"リスト数"等の情報も使用している。

(2)Amplification Probability(バイラルが起きているか?)
・主なパラメータ
総ツイート数
@ツイート数(対話数)
リツイートされたメッセージ数
発信ツイート/受信ツイート
 これ以外に"フォロワーのツイート数"等の情報も使用しいてる。

(3)Network Influence(影響力のあるフォロワーを擁しているか?)
・主なパラメータ
フォロワー数/フォロー数
フォロー返し率
ユニーク@ツイート者数
ユニークリツイート者数
これ以外に"フォロワーのインフルエンス力"等の情報も使用している。

その内容をまとめたものが以下の図だ。使用しているパラメータ名は部分的に紹介されているが、具体的な計算式は明示されていない。このため、計算結果と入力パラメータの正確な関係は裏付けられなかった。

前出の@cocacola,@masason,@BRITNEYPEARSの3つのアカウントで具体的な数値をみてみよう。

【図 @cocacola,@masason,@BRITNEYPEARSKlout Scoreの計算指標】
(1)True Reachでは、@cokacolaが唯一得点が付いている。これに対して@masasonと@BRITNEYPEARSは、"NA"だ。この差は「親密なフォロワー数」、「フォロワーの@リプライ率」、「フォロワーのリツイート率」にある。例えば「親密なフォロワー数」を見てみよう。解説文章から推測すると、以下のような関係は「親密なフォロワー」ではないと評価しているようだ。
・たくさんのフォロワーがいて、直接交流をしていない人同士
・共通のフォロワーが少ない人同士
つまり、同じフォロワー数でも、フォロワー集団の種類・属性によって、結果が大きく異なることになる。また@cocacolaのツイートを確認すると、ほぼ全てが対話ツイートだ。「フォロワーの@リプライ率」が高いのも頷ける。しかし、@BRITNEYPEARSも@masasonも、一方的なツイートだけでなく対話ツイートも結構ある。しかし、@cocacolaが冒頭に”@”から始まるツイートばかりであるのに対して、その他の2アカウントの対話ツイートは単純に"@"から始まる形式ではない。@BRITNEYPEARSでは「コメント+(from @XXXX)」や@masasonでは「コメント+"RT"+アカウント名」といった記述をしている。このため、対話ツイート(通常"@+アカウント名"から始まる)とみなされていないと思われる。このあたりを配慮するとここまで大きな差異は生じないように思われる。
(2)Amplification Probabiilityを見てみると、対話ツイート数の多さが効いているようだ。それ以外の項目は全て@BRITNEYPEARSが群を抜いているのに@cokacolaのほうが高スコアになっている。項目以外にも、@cokacolaのリツイート数/総ツイート数は実に6割を超える。この割合は、実質的に読者に価値あるツイートをより効果的に広めている指標にもなるだろう。
(3)Networkでは、フォロー返し率、ユニーク@ツイート者数で@cocacolaが圧倒的だ。
確かに、@cocacolaはフォロワー数とフォロー数が他の2アカウントに比べて拮抗している。フォロー返し率と記載したパラメータは英語表記は[follow back]だが、100%超える値も存在するので、単純な割合ではないようだ。また、ユニーク@ツイート者数、ユニークリツイート者数は、ネットワークの広がりを測るにはよいパラメータだ。

@cocacolaは積極的に、多くの人と対話しているアカウントだ。多忙な有名人が運営する他の2アカウントよりも組織的に、きめ細かく対応できている。高スコアになることは合理的だ。一方、明確な計算式が提示されていないため、検証してゆくと釈然としない部分も少なくない。いずれにせよ、評価軸の定義は効果測定指標の策定には参考になるのではないだろうか?また、KloutではInfluence Mtrixという、アカウントの性格を16種類の類型化も試みている。
・発言数が多い「参加型傾向」か少ない「傾聴型傾向」
・発信内容が「クリエイティブ型(独自の発言が多い)傾向」か「共有型(他の人の発言やURLが多い)傾向」
・交流が特定の人に「限定される傾向」か「幅広く漂流する傾向」
・発言内容が「厳格な言い回し」か「やわらかい言い回しか」

といった特徴により類型化している。

【図 Influence Matrix】

発信者やフォロワーのキャラクター(性格)により、多様なバリエーションが存在する。インフルエンス力は、単純な数値(スカラー)で一元的に評価できるものではなく、指向性をもつベクトル情報として考えるべきだ。

クチコミを味方につける企業、恐れる企業〜インフルエンサーを探すことから始めよう

■ある大物ブロガーの変節

7/1"Symbian-Guru.com"というブログが終了した。

【図 symbian-Guru.com】
このブログは4年近くにわたりRicky Cadden氏が運営してきたものだ。自身シンビアン携帯端末のヘビーユーザであり、ブログのタイトル通り「シンビアンのグル」と呼ばれていた。携帯関係の記事を多く執筆しており、その発言に注目している読者も多い。ソーシャルメディアを通じて広くメッセージを伝搬(バイラル)させる力を持つインフルエンサーだ。
Ricku Cadden氏は、これまでシンビアンOSを採用するノキア社が提供する携帯端末が関心の対象であった。しかし、今はandroid携帯に移ってしまった。ブログでは、関心が変わった理由が「ノキア社とシンビアン社の取り組み姿勢に絶望したことである」旨を伝えている。これまで「好感の持てるバイラル」を生み出していた氏が、一気に「ブランドを否定する」バイラルを生み出すに至ってしまった。ノキアにとってもダメージが大きい。翌日には、ノキアのオフィシャルブログに副社長Anssi Vanjoki氏が、Ricky氏を初めとしたサポータに戻ってきてもらうように努力するとのコメントを掲載している。世界で最も多くの携帯電話を販売しているノキアも、一人のブロガーの行動に注意と敬意を払っている。厄介だけど、頼りになるインフルエンサーとどのような関係を保てばいいだろうか?
先ずは、対象となるインフルエンサーを見つけることが必要だ。

インフルエンサーの見つけ方

あなたの関与する会社・商品のインフルエンサーはどうやって探せばいいだろうか?
有名な企業・ブランドであれば「シンビアンのグル」のような存在を探さなくても、メディアが取り上げてくれるだろう。今時有名でない企業でも、コストや時間をかけずに見つけるツールがネット上に溢れている。googleでもブログ検索が利用出来る。一例としてTopsy(http://topsy.com/)をインフルエンサーを見つける例を紹介しよう。
tospyでブランド名で検索する。すると、該当する内容を含むページのURLごとにツイッターでバイラルされた件数が表示される。
例えば、図はtopsyで当社のがslideshareで公開している資料「Socialmediaの今を一時間で理解する」のURLをツイッターでツイートした人々の一覧だ。

【図 Topsyによる「Socialmediaの今を一時間で理解する」ページをツイートした一覧】
どのような見解を持ちながらツイートされたのか一覧で把握できる。また中には"Highly Influential"というマークが付いている人がいる。この人のアカウントのフォローワーは10万人に迫るレベルだ。topsyのブログページには、"Highly Influential"と記したアカウントの定義について以下のような説明をしている。

Highly Influential:roughly the top 0.2% most influential of all Twitter users
Influential: tags appear for the top 0.5% most influential Twitter users

計算方法は、過去からのリツイートと文章の内容を参考にしているらしいが、明確な計算式は見当たらなかった。何れにせよ、彼が関心を持ちリツイートしてくれれば、大勢の人がこの資料を目にすることになるだろう。

インフルエンサーを活用する企業

ヴァージンアメリカ航空は、インフルエンサーの伝搬力評価サービスを提供するKlout社(http://klout.com/)とタイアップキャンペーンを始めた。

【図 バージンアメリカ航空のインフルエンサー対象キャンペーン】
キャンペーンの内容は、
・新たに就航するトロント⇔サンフランシスコ間の飛行機代を無料にする。
wi-fiも使い放題
・就航記念イベントへの招待

というものだ。更に、図にあるような快適な座席も用意される。
【図 キャンペーンで使用する機内の様子】

対象はツイッターアカウントを持ち、そのアカウントがKloutの評価するインフルエンサー伝搬力評価で一定のスコアをもっていることが求められる。キャンペーンサイトでは、基準は明確ではない。適性があるか評価するボタンを押すと、ツイッターアカウントでサインインすることを求められ、後に適性があればメールで連絡が来るとのことだ。スコアだけでなく、ツイート内容やプロフィールなどもチェックされるのだろう。Mashableの記事(http://mashable.com/2010/06/21/virgin-america-klout-influencers/)では、Klout Scoreが42の女性に招待状が着た例が紹介されている。彼女のフォロワー数は3千件、ツイート数は2万件を超える。試しに、Klout Scoreを求めてみると63となった。(Klout Scoreについては次回紹介する。)

【図 Klout Score】
無料の飛行機に乗ってインフルエンサーは何をすればいいのだろうか?何もしなくていいらしい。フライトの際にサンプル商品を手渡されるので、気が向いたらその商品について話してもらいたいということが、唯一のリクエストだ。あくまで要望であり、責務を求めるものでもない。キャンペーンページには「ツイートを買収するつもりはない」と明示までされている。
そうはいっても、インフルエンサーにとっては、タダで快適な旅行中に触れる特別な商品だ。好意的な発言をしてもらえれば企業にとっては、絶好的なプロモーションになるだろう。ネガティブな意見があっても、対象(インフルエンサー)が限定されているので、通常よりは迅速な対応が可能だろう。バイラルを生み出す確率を高めるには、効果的な手法だ。

「リスク回避の第一歩。企業アカウント一覧を公開しよう〜NHKのツイッタ活用事例」

ツイッターの企業アカウントでは、担当者は実名を公開すべき?」こういった問合せを受けることが多くなってきた。実名公開すると、
・企業の透明性を高める
・顔が見えることで対話する人に安心感を与える
・担当者が責任ある発言をする(発言の信頼性が増す)
といったメリットが期待でき、総じて公開するべきとの雰囲気を感じる。確かに、ソフトバンク孫社長が匿名で発言しても、今ほどのインパクトはないだろう。経営者以外にも営業担当者や人事担当者など「面識のない人と知り合うことが大切な職種」の人々の実名をホームページで掲載する例を多く見かける。事前にその人の発言を読むことで、初対面とは思えない打ち解けた交流が可能になることもある。
反面、
・担当者が退職したり、変更になった場合に連続性が失われる
・担当者に任命されたため、不本意ながらプライバシーの公開を強制させられる。

といったネガティブな問題もある。実名・顔出しに抵抗がないと言われる米国でも、前稿「企業 Twitter アカウントの整理法〜 AT&T の取り組み」で紹介したAT&Tツイッターアカウントは、カスタマーサポートのアカウントだけが実名。それ以外は「組織名」となっている。透明性で名高いzapposでも、実名顔出し社員ツイッターアカウントは62%だ。もちろん会社として強要もしていない。
上記の得失を配慮して、用途によって使い分けることが求められる。
経営者とともに、全員顔出し・実名の職業がある。アナウンサーだ。こちらツイッターアカウントをもつアナウンサーのリストが確認できる。このような人材の宝庫であるテレビ局の運用方法を見てみよう。国内のテレビ局で最も積極的にツイッターを活用しているのはNHKだ。twinaviでテレビ局アカウントのフォロワー数ランキングでは、1位@NHK_PR、2位@NHK_onairとなっている。

【図 テレビ部門のツイッターアカウント一覧(twinavi)】
公式アカウントも実に25件に上る。

【図 NHKの公式アカウント一覧】
これらのアカウントのうち、アカウント名にも名前が含まれ、アナウンサーが実名でツイートしているのは、堀潤アナウンサーのアカウント@nhk_HORIJUNだけだ。タイムラインは大変フレンドリーだ。

【図 堀潤アナウンサーのツイッターアカウント】
「今週もおつかれさまでした。今日のネクタイ、ツートンカラーでかわいかったです。」といったツイートに、
「えへへ照。ありがとうございます♪(´ε` )!実は青も入ってたんですよー!」
などといったNHKらしくない、柔らかいやり取りもある。人柄も推し量れる楽しいアカウントだ。今年3月に開始したニュース番組「Bizスポ」とともに開設アカウントで、1日平均10件程度のツイートがなされている。フォロワー数は1,800人程度だ。スポーツニュース担当ということで、柔らかめのツイートが生活者にも受け入れやすいだろう。自己紹介には部署や担当番組がしっかり書き込まれている。
この他にも、道傳愛子解説委員の@nhk_asianvoicesも実名だ。自己紹介に番組「NHK WORLDの公式アカウント」との記載がある。主に英語で日本の代表的なニュースを不定期にツイートしている。この他のNHKのアナウンサーが実名アカウントを用意している例は確認できなかった。明確な方針のもと、局内で運用ルールが確立し、徹底されているのだと考えられる。一方、巧妙な切り返しで有名なNHK_PRは広報担当のアカウント。フォロワー数は6万人を超える。1人でツイートしているが実名は非公開だが、フォロワーは個性をはっきり読み取れる。実名でなくても、しっかり個性を発揮できる証明にもなっている。同様に、@nhk_roboconや@nhk_bizspoなどの番組公式アカウントでも、特定の番組スタッフ1名が「組織名」で積極的に視聴者との交流を試みている。第二、第三の@NHK_PRが着々と育っている。しっかりと実名アカウントと組織名アカウントを使い分けながら、ツイッターへの取り組みを深化させている。
民放局はどうだろう。多くの女子アナがツイッターアカウントを持っている。1万人近くフォロワーがあるアカウントも少なくない。TBSはNHKに続いて積極的にツイッターに取り組んでいる放送局だ。全国ネットの民放局の中では、唯一公式アカウント一覧も掲載している。しかし表中、アナウンサーのアカウントは掲載されていない。

【図 TBSの公式アカウント一覧】
実際にはTBSのアナウンサーのアカウントは多数存在する。アカウントの自己紹介では、実名・顔出しは一貫しているが、アナウンサーによってTBSとの関係をプロフィールに記載していたり、いなかったりする。特に明確なルールは設定されていないようだ。図は竹内香苗アナウンサーのものだが、自己紹介の記述がない。

【図 竹内アナウンサーのツイッターアカウント】
ツイート内容を読めば、テレビ番組や仕事のことを数多く発言されている。読者は本人のアカウントと判別できるので問題ないのかもしれない。しかし、今後なりすましアカウントが発生した場合、読者の錯誤を招くこともあるだろう。いわれのない風評被害を受けるリスクも考えられる。
社員が私的にソーシャルメディアに参加することを企業が妨げることは出来ない。しかし、いかに私的とはいえ、会社自身、取引先、会社が提供する製品(サービス)に関係することを社員の立場で発言する場合には、一定のルールを設け社員を教育することが、企業や製品(サービス)のブランド、そして社員自身を守るために大切である。同時に、世間一般に対して、企業の社員への指導方針や利用目的を表明し、アカウントの一覧を公開することで、なりすましアカウントに対する錯誤を抑制できる。

企業twitterアカウントの整理法〜AT&Tの取り組み

twinaviに登録されているtwinavi公認企業アカウントは3,500件を超える。今回は企業アカウントについて考えてみたい。例えば、twitterの活用成功例としてよく取り上げられる「豚組は、@butagumi@hitoshiの2つのtwitterアカウントを使っている。オーナーの中村仁社長によると@butagumiは「表玄関」@hitoshiは「勝手口」と区別しているとのこと。なるほど、タイムラインを見ると@butagumiでは予約の確認、お礼のツイートが流れている。一方、@hitoshiでは、個人的なツイートやお知り合い達との対話が繰り広げられている。@butagumiに比べて、フランクなツートが多いように感じる。
 たったひとりで2つのアカウントを活用する豚組と対照的なのが、米国家電量販店ベストバイだ。顧客対話用の@twelpforceは2,100人でひとつのアカウントを運用している。「ベストバイの Twitter 活用術〜従業員2,100人が、たった1つのアカウントで生活者と対話する」に当アカウントの詳細説明があるので参考にされたい。これ以外の公式アカウントとしては、@bestbuyがある。アカウントの使われ方をチェックすると、@twelpforceでは対話ツイートが大部分を占めるのに対して、@bestbuyでは"RT(リツイート)"が殆だ。主として対話用には@twelpforce、情報配信用には@bestbuyと使い方がなされている。利用者からすると、対話用は@twelpforce一つと分かっていれば、迷うこともなく疑問を投げかけることができるだろう。製品の情報が知りたい人は迷うことなく@bestbuyをフォローするだろう。
逆にアカウントを細分化する企業も有る。米国の通信キャリア大手AT&Tはホームページ内に、ソーシャルメディアのアカウント一覧ページを用意している。

【図】ATTのコミュニケーション・インタフェース
インタフェースの内訳は、
ツイッターアカウント:11件(うち1つはデッドリンク
facebook FanPage:5件
Flickr グループページ:3件
youtubeチャネル:4件
・ブログサイト:4件
ATTのソーシャルメディア活用の特徴としては、ツイッターアカウントとFacebookファンページやブログを連携させて運用していることがあげられる。タイムラインを通り過ぎて消失するフロー型のツイッターに対して、ブログなどの蓄積型のメディアを組み合わせることで、届けたい人にリーチできる環境を用意している。広報アカウント@shareATTでは、FacebookyoutubeFlickrに同じ名前の企業ページを用意している。

アクティブなtwitterアカウント10件についてtwanalyst.comで分析してみた。

【図】ATTの公式ツイッターアカウント別の分析内容
・事業分野による分類
 @ATTNews:全社のニュース配信
 @ATTdeals:モバイルサービス向けニュース配信
 @BizSolutionsエンタープライズ向け情報提供
 @SmallBizInSite スモールビジネス向け情報提供

@ATTNewsと@ATTdealsは、ATTのPRアカウントになっている。ATTホームページへの誘導リンクが必ず含まれている。対話は一切ない。
一方、@BizSolutionsと@SmallBizInSiteの2つのアカウントは、他メディアを含めた関連ニュースや自社セミナーの案内などをリンクとリツイートで配信している。

・業務分野による分類
 @ShareATT:広報
 @ATTCustomerCare:カスタマーサポート
@ATTJOBS:採用

広報アカウント@ShareATTの「自己紹介」には、
Official Twitter source for AT&T announcements, product updates, sponsorship news & more.
とある。実際のツイートを見てみると、カスタマーサポート(@ATTCustomerCare)への誘導ツイートが相当数に上る。特に、カスタマーサポートアカウントへの告知媒体としての役割も担っているようだ。
 カスタマーサポート(@ATTCustomerCare)では、Molly氏が「実名・顔見せ」で応対にあたる。「実名・顔みせ」は彼女だけではない。アカウントで公開されているリスト@ATTCustomerCare/teamには、19名のカスタマーサポートメンバーの個人アカウントも掲載されている。

【図】リスト@ATTCustomerCare/teamのメンバー
アカウント名の先頭には[ATT}で実名が後に続くというネーミングルールも統一されている。ツイートの中身をみてみると
「Can I help you with something? I'm with AT&T, please DM me if you need assistance.」といった内容が多数確認できる。「困っている人を積極的に探して、サポートする」ことに利用しているアカウントだ。また、全てのメンバーがDMでのやり取りに誘導しているので、運用ルールも浸透しているようだ。もちろん、プライベートな内容は一切ない。仕事にのみ使っている。

・独立ブランド、イベントによる分類
 @ATTGolf:「Masters」,「AT&T Pebble Beach National Pro-Am」,「 AT&T National」の3大会のハイライトをツイート。ゴルフ大会が開催されている時期のみの利用。
 @buzzdotcom:ATTの運営するコミュニティサイトのアカウント
 @YPmobile:携帯用イエローページのアカウント

 @YPmobileでは、レストラン等を探している人を見つけては、勝手に付近のレストランを紹介している。もちろん、YPmoblieの該当レストランのURLも挿入している。いわゆる「アクティブサポート」を実践している。

 このように、ATTのアカウントは、それぞれ目的・運営ポリシーが、はっきりしている。しかし、当初から一貫性のあるアカウント運営をしていたわけではない。最初に作成したアカウントは、@SmallBizInSite。すでに2年半が経過する。おそらく現場部門が自発的に運営を開始したのだろう。それから徐々に他の事業分野の配信系アカウントの運用が開始されている。機微な対話スキルが、組織的に求められるカスタマーサポートへの導入は昨年の8月だ。時間をかけながら対応可能なチームを育成してきた様子が伺える。

企業アカウントの利用者はあくまで顧客や生活者である。彼らへのリーチが目的であれば、彼らの立場に立って考えなければならない。ブランドが確立した商品・サービスがあれば、専用のアカウントを用意したほうが、生活者はコンタクトしやすいだろう。一方問い合わせは、アカウントを一本化した方が生活者が迷うこともなくなるだろう。対応の効率性等を思慮すると、運用側の都合(企業側の論理)を優先したくなるが、生活者目線を忘れないよう注意したい。

広がるオープンガバメント〜総務大臣原口氏、農水省官僚原田氏のアプローチ

政府は、オープンガバメントを推進している。オープンガバメントとは「インターネットの双方向性等を活用することで、積極的な政府情報の公開や、行政への市民参加を促進する」ことを指す。インタフェース一覧も用意されている。経済産業省主催で、期間限定で国民の意見を募集するアイディアボックス内閣府の用意した「ハトミミ.com」などここ1年間で様々な試みが始まっている。twitterアカウントも5件(うち一つはハッシュタグ)紹介されている。フォロワー数がもっとも多いのは、総務省消防庁が4/26に開始した「災害情報タイムライン(@FDMA_JAPAN)」だ。17,000人を超えるフォロワーを抱える。タイトルの通り「大規模災害時(日本国内における震度5強以上の地震発生時等)に被害情報を発信」するアカウントだ。フォロー数0の情報発信専門ツイートだ。原口総務大臣が3月2日に津波情報をツイートしたことで物議を醸したが、トップダウンの成果だろう。倣ってオフィシャルアカウントを用意した形だ。「認証済みアカウント」のマークも付いている。

【図_災害情報タイムライン】
twitterガイドラインも用意してある。日本の官庁でガイドライン公開している例は、私が知る限り初めてだ。

【図_災害情報タイムラインのtwitterガイドライン
この他にも、「透明性を志向する政府〜日本:原口総務大臣が Ustream 会見を敢行! 米国:オバマ政権がソーシャルメディア・ポリシーをリリース!」で紹介した通り、原口大臣自らが率先垂範してyoutubeustreamを活用して情報配信を積極的にすすめている。
「お役所仕事」は「融通が利かない杓子定規な仕事ぶり」を比喩する言葉だ。役人さんには自発的に業務を変えてゆくことなど出来ないのだろうか?そんなことはない。凄いアカウントを紹介しよう。
農水省官僚のアカウントだ。ご本人も仕事として取り組んでいると述べておられ、実名で活動されているので紹介したい。原田英男氏(@hideoharada)だ。

【図 農水省官僚 原田氏のtwitterアカウント】
自己紹介には「職場は霞が関で畜産関係です。仕事の話はクビにならない程度につぶやきます。」とある。20-50件/日のペースでツイートを続けている。こちらは、フォロワー数は約4,800人。流行が明らかになった4/20以来、口蹄疫の情報をいち早く、正確にツイートされている。ツイート内容と農水省のホームページの更新情報は連動しており、発言の信頼性は高い。ツイートを読めば、悲惨な被害状況とともに、関係者の方々がゴールデンウイークも土日もなく、口蹄疫の対応に取り組んでいる様子がよくわかる。情報の拠り所にしている読者も少なくない。ツイート内容は、被害状況の報告や農水省の対応状況だでなく、海外の対応事例の紹介、口蹄疫の感染力、農家への気遣いなど広範に及ぶ。質問にも丁寧にリプライされている。twitterを活用して口蹄疫の情報を配信する狙いの一つに「事実関係を迅速に伝えて、風評被害を防止する」ことがある。実際に風評に動揺する人をたしなめる場面もある。相当の時間をさかないとこのような対応はできない。当然、口蹄疫に関する「獣医学的な知識」「法律的な知識」「過去の経験」など広く、深い知識がなければ、迅速かつ柔軟な対応は不可能だ。
 しかし、このアカウントはあくまで個人のもの。農水省の公式アカウントではない。「オフィシャルアカウントは提案しているのですがすぐには無理のようです。」といった氏のツイートも有る。組織に提案をしているが、実現はできていないようだ。そのため、氏のプライベートなツイートも混在している。趣味・趣向や日常生活の内容も少なくない。とても人間味あふれるタイムラインになっている。これを読んだ読者から「農水省って、口蹄疫で大変なときでも、映画を見たり本を読んだり、音楽鑑賞する時間はあるんですね。」と厭味なツイートを投げかけると「そうですね。ご飯も食べますよ。」と応対している。精一杯業務をされているという自負も伺える。
氏は、「口蹄疫の情報」を発信するスタンス(ポリシー)を以下のように説明している。
・私のアカウントは農水省の公式ではありません。可愛いiPhoneを相棒に個人的見解をツイートします。
農水省の公表情報や事実関係もツイートします。
・質問には即答できないものもあります。
質問に即答できなもの:そもそも私に知識がない、事実の確認に時間がかかる、本来業務で手が離せない場合などです。最も困るのは「こう言う話は本当か」で、内容が複雑なものほど私の説明能力を超えてます。私が把握できる事実関係はお知らせしますが、限界も。「ちょっと待て、そのRT、自信ある?」
・私の口蹄疫ツイートは事実関係は農水省HPアップ後にしてますが、質問への回答は適宜してるし。私はこれも仕事と思ってます。
・職務専念義務については、マスコミや消費者、生産者からの問い合わせに対する対応と同じと割り切ってます。が、管理側が割り切らないで首切るかもw。
・どうなるか分からんけど、守秘義務以外は余り気にしてない。生産者や消費者とこういう形で繋がることは、自分の仕事と思ってます。わたしは浜ちゃん?

組織からの指示でなく、信念を持って自発的に業務に取り組む姿勢、国民にしっかり向き合う姿勢には拍手を送りたい。「お役所仕事」という言葉の意味が変わる日も近いと期待したい。

Twitterの「なりすまし」アカウントに立ち向かう4つの習慣

■国会議員の「なりすまし」
 5月31日ツイッター民主党参議院議員16名の「なりすまし」アカウントの存在が明らかになったとの報道があった。アカウント開設は4月1日なので2ヶ月間運用されていることになる。現在も、すくとも一部のアカウントは確認できる。ツイート内容は、
「私ども若手議員で、「twitterを活用する」議連を発足しました。2010年度から始動していきたいと思います。皆さまのご支援・ご協力を賜りたい所存です。」
「友愛!友愛!」
といった内容で、10件前後のツイートがなされている。フォローワーが100人近いアカウントも有る。ニュースになってからは「謝罪」のツイートが並んでいる。選挙を前に議員の方々は相当に困惑されていることだろう。このようなことが起きると、ネット選挙が解禁されるなか、twitterが見送られたことも妥当な判断だろう。twitterアカウントのなりすまし行為は、政治家のみならず、著名人やスポーツ選手など大勢の被害者を生み出している。

■BP社の場合
有名人だけの問題ではない。企業アカウントにも「なりすまし」も起きている。英国の大手石油会社BPの例を紹介しよう。
現在、BP社は4月20日に発生した「メキシコ湾沖の原油流出事故」の対応に忙殺れている。彼らのオフィシャルtwitterアカウント@BP_Americaでは、懸命に問題に立ち向かっている状況が、刻々とツイートされている。フォローワー数は8,584人。ツイート数は334件だ。

【図_BP社の正式なtwitterアカウント:@BP_America】
「なりすまし」アカウントは@BPGlobalPR。アカウントが開設されたのは5月10日と日が浅いにも関わらず、フォローワー数は92,934人とオフィシャルアカウントの実に10倍を超える。

【図_BP社の「なりすまし」twitterアカウント:@BPGlobalPR】

ツイート内容は、
「ゼリー豆、ジェットコースター、ピザとトランポリン。これらは、石油がなければ存在しない」
原油が流出した衛星画像をみた。流出したその形状は、美しい」

といった、ユーモアー溢れる不謹慎な内容だ。プロフィールのリンクをクリックすると、Tシャツのコマースサイトにたどり着く。商品数は少ないが、「なりすまし」ツイッターアカウントのゴロ入りのTシャツが25ドルで購入できるようだ。アカウント名も"BPGlobalPR"と尤もらしい。この大惨事をネタに一儲けを企てているようだ。
これに対して、BP広報担当Toby Odone氏は「(そのアカウントで)どのような発言がなされているか気にかけていない。何人にも、今回の事故について自らの意見を述べる権利がある。我々にできることは、問題を解決するためにベストをつくすことだけだ」と語っている(http://adage.com/article?article_id=144062)。要するにBP社は、この「なりすましアカウント」には放置するポリシーを決定している。記事に投稿されたコメントには、「素晴らしい対応」と評価するものも多い。

【BP_America と BPGlobalPR のフォローワー数推移】
しかし、この記事が紹介されたのは5/24以降フォローワー数が急増していることを考えると、少なくともメディアが取り上げた後の対応は、適切なのか疑問もある。注目を集めたTシャツを売りたい(なりすましアカウントを開設した)業者は、大成功と喜んでいるかもしない。
「なりすまし」は、上のような確信犯だけではない。利用者に錯誤を与えることも珍しくない。

スターバックスの場合
全世界にチェーン店展開を進めるスターバックスの例をみてみよう。
"starbucks"あるいは"SBX"等のスターバックスを連想させる単語を含むtwitterアカウントは160件を超える。企業になりかわって発言しているわけではないので、「なりすまし」ではないが、利用する人は混乱することは必至だ。図はtwitterのアカウント検索窓で"starbucks"で検索した結果のアカウント一覧だ。

【図_スターバックスを連想させるtwitterアカウント一覧】
認証アカウント、各国の独自アカウント、ファン開設のアカウントなどが確認できる。この他にも、
・特定の店舗が解説したアカウント
・従業員・労働組合が開設したアカウント
・ファンが開設したアカウント
・パロディー(ふざけた)アカウント

といったものがある。ファンが熱心にお店を紹介してくれるのは、企業からすると有り難いPR活動だろう。反面、"@StarbucksCafe"や"@StarbucksGlobal"など、如何にも公式アカウントのような名前もある。ロゴも本物と同じものを使っているので、内容を読まないとスターバックスが運営しているアカウントか否か分からない。
スターバックスの事例から学ぶ、写真撮影ポリシーの作り方」では、スターバックス店舗内で写真撮影を許可するか否かの論争を発端として、スターバックスFlickrサイトが閉鎖された事例を紹介したが、まさにお店で女性の写真の撮影して投稿するサイトのアカウント@womenofsbuxも確認できた。@starbucks_girlといった内容のない「ふざけた」アカウントも有る。

■パロディ、コメンタリー、ファンアカウントのガイドライン
twitter社は、そのアカウントが「なりすまし」など錯誤を招きやすいと認定すれば、申請があれば変更を依頼したり、アカウントを抹消する措置をとるとしている。ヘルプページで、その基準も提示している。

(以下、ヘルプ内の本文再掲)
・ユーザー名:ユーザー名は、パロディやコメンタリー、ファンアカウントの対象と同じ名称にはしないようにします。分かりやすくするため、「not」「fake」「fan」などの語句を入れ、区別するようにします。

・名前:プロフィールの名前も、対象の名称と同一にしないようにします。「not」「fake」「fan」など区別するための語句を入れるようにします。

・自己紹介:自己紹介は、実際の属性と区別するため、「パロディです。」「ファンページです。」「パロディアカウント」「ファンアカウント」「○○とは無関係です。」などの記述を入れるようにします。

・他のユーザーとのコミュニケーション:公開、非公開を問わず他のユーザーとのコミュニケーションを通して、その属性について他のユーザーを欺いたり、混乱を招こうとしてはいけません。例えば、ファンアカウントを運営している場合は、まるで自分が本人(人、バンド、スポーツチームなど)であるかのようにダイレクトメッセージを送ったりしないようにします。

twitter社に問題を指摘して、10日程度で解決できた事例もある。

■企業として対抗できる4つの習慣
現状、アカウントを作成は阻止できない。しかし、次のような対応ならば、企業努力で推進できる。

習慣1 インタフェース一覧として、企業の公式アカウントをホームページに掲載する。
習慣2 オフィシャルアカウントについては、ネーミングルールやロゴを統一する。
習慣3 目に余る「なりすまし」、「錯誤を招く」アカウントについては、twitter社に削除要請する。

また、問題を早期に察知し、すみやかに対策を講じるためにはいち早く「気づく」ことが必要だ。先ずは、企業について語られていることを定期的に拝聴すること(習慣4)から始めたい。

「ソーシャルメディア・ポリシー」を構成する3つのガイドライン

先月、NECソーシャルメディア・ポリシーを公開した。国内でもポリシー策定の動きが目立つようになってきた。ソーシャルメディア・ポリシーは企業のソーシャルメディアに取り組む姿勢を規定し、実践を表明するものであるから、すべての企業の業態、体制等によって内容は異なる。 また一企業からみても、サービスを享受する一般生活者と従業員では、関心を持ってもらいたい内容も随分異なる。彼らの行動を制限する企業が権限も違う。更に従業員の中でも、業務としてソーシャルメディアに参加する従業員とそれ以外の一般従業員では、期待する役割も大きく異なる。このように考えると、ソーシャルメディア・ポリシーを構成するガイドラインは、少なくとも次の三種類が必要になってくる。
1.生活者を対象とした「コミュニケーション・ガイドライン
2.一般の従業員を対象とした「社員活用ガイドライン
3.業務としてソーシャルメディアに参加する運用チームを対象とした「チーム運用ガイドライン

【図 ソーシャルメディア・ポリシーを構成する3つのガイドライン
今回は、其々のガイドラインの作り方を紹介する。

1.「コミュニケーション・ガイドライン
対象は、生活者、企業の外部関係者。彼らに、企業がどのような意図でソーシャルメディアを活用しているのか、考えを表明することが主たる目的だ。様々な立場の人に参加を呼びかけ、参加する際の注意するべきポイントを提示する。とりわけ強く呼びかけたい相手に対しては個別に運用方針を説明することもある。インテルでは、Intel Sponsored, Seeded or Incentivized Social Media Practitioner Guidelinesとして、企業から報酬を得て製品記事を投稿するブロガー、モデレータに向けたガイドライン・ページを特別に用意している。

【図_インテルの報酬を受けているソーシャルメディア専門家向けガイドライン(日本語版)】

この背景には、米連邦取引委員会(FTC)が2009年12月から施行した「推奨広告と証言広告の利用に関する指針」がある。「報酬を受け取ったり、商品を無料で提供されて口コミ記事を記載した場合に、その旨を明示することを義務付けた」ルールだ。違反すると罰則も有る。日本でも今年になって、大手広告代理店などが参加する「WOMマーケティング協議会」が自主規制を打ち出している。企業がこのような方針を表明しておけば、仮に投稿者が報酬を受け取っていることを明示せずにクチコミ投稿をしても、企業が一体となって意図的に隠蔽していないことを明らかにできる。
 この他にも、例えば派遣会社であれば契約期間を終了して、会社との関係がなくなった元派遣社員に対して、契約時の派遣先の情報を投稿することを禁止する要求を掲載すること等が想定できる。総じて派遣契約書に派遣期間後の守秘義務の遵守が明記されているだろう。しかし、投稿されてしまえば、当人を叱責しようが、取引先に迷惑がかかった事実を消せはしない。企業としてできることは、その予防に努めることと、事後対策を準備しておくことだ。予防の有効な手段は、常日頃から様々な人と良好な関係を築いてゆくことだ。ソーシャルメディアを通じて円滑なコミュニケーションを維持できれば、リスクも軽減できるだろう。
 また、企業の内部事情を知らない人に対して、企業が正式に承認しているインタフェース(ソーシャルメディアのアカウントやマイページなどのURL)を一覧表示することも誤解を招かないためにも、効果的なコンテンツだ。
当社では、こちらで公開している。
2.「社員活用ガイドライン
 業務としてソーシャルメディアに参加していない社員にも、ソーシャルメディアをよく理解してもらうことが目的だ。ミクシーは使っていなくても、アマゾンで書評を読んだり、カカクコムで商品のクチコミ情報をチェックしたことが一切ない社会人は、既に少数派だ。チェックしていると会社に関係のある「様々な情報」に遭遇し、大きなビジネスチャンスに出会ったり、大変なリスクに気づくもともあるだろう。親切心から、悩んでいる人に、自らの業務知識を提供してフォローしてあげたいと考えるかもしれない。こんな時に、「企業の考え方」「参加時の心構え」「困った時の相談先」を用意されていれば、拠り所として対応ができる。なにも用意がなければ、「余計なことはすまい」と折角の機会を放棄することにもなるだろう。このガイドラインは、社員の理解を深めることが重要なので、教育制度と連動することも多い。以前紹介した、米国のメイヨークリニックでは、パワーポイントのテキストを用意して、勉強会を開いている。同時にホームページにも社員向けのガイドラインを掲載している。また、大規模な企業においては、ガイドラインを周知させるには膨大なコストがかかる。ホームページに掲載しておくことで、社員は何時でも内容を確認できる。また、社外の人の目に触れても、特に隠し立てするような内容でもない。むしろ、企業が社員にどのような指導をしているかを理解してもらう機会にもなる。企業の透明性のアピールにも一役買っている。
3.「チーム運用ガイドライン
 業務として、企業の代表としてソーシャルメディアに参加する人達向けにガイドラインを用意する。目的は、「リスクを最小化しつつ、積極的にソーシャルメディアを利用するための行動基準」をメンバーに浸透させることだ。基本的に社内の業務フローマニュアルに近い性質を持つので、外部に公開されている事例は乏しい。
 一般の従業員と同様に「参加時の心構え」を定義するが、企業を代表して発言している自覚を促す項目が追加される。「チーム運用ガイドライン」のメインコンテンツは、「運用ルール」だ。以下に(インタフェース別)、(共通認識)、(例外対応)の3つに分類して内容を説明する。

(インタフェース別)
例えば、ツイッターであれば、1日のツイート回数やフォロー返しの方針、ツイート内容などのルールを決める。ブログであれば書き込まれたコメントへの対応方針などを定義する。前稿「あっちゃん(オリエンタルラジオ)に学ぶ Twitter 運営ポリシーの作り方」で紹介したように、運用ポリシーについては、一部の方針を「コミュニケーション・ガイドライン」の運用方針に盛り込むことで、生活者にも運営スタイルを理解してもらえるだろう。マイクロソフトソーシャルメディアポリシーでは、"Tweeting Guidelines(マイクロブログ)"と"Blogging Guidelines(ブログ)"の2種類のソーシャルメディアの運用方針をQ&A形式で紹介している。

(共通認識)
また、「運用ルール」にはインタフェースによらない共通の規定も求められる。
例えば「開示してよい情報」「チームの判断で対応出来る範囲」などを定義する。「開示してよい情報」には、従業員の氏名や所属などの個人情報・取引先の情報、新製品の情報や財務データなどの公開基準を定義する。例えば「ホームページでも公開されている情報は公開して良い」、「社内イントラネットの特定のエリアに掲載された製品情報は公開して良い」といったルールを設けることが考えられる。
「チーム判断で対応出来る範囲」では、例えばクレームが投稿された際に返金や謝罪について、どのレベルまでは運用チームで判断・行動していいかを企業がコミットする。

(例外対応)
上記は、常に生活者と退治している運用チームが、迅速に、ストレスを少なく対応するために大変大切な項目だ。しかし、ソーシャルメディアは「なまもの」。どんな現象が起きるか分からない。運用チームが独自で判断出来る範疇を超えた場合の対応方法を、予め想定しておく必要がある。炎上事件が起きても、迅速な意思決定ができる/できないで、その後の状況に大きな影響が生まれる。過去に発生した炎上事例を題材に勉強会を開くことも、よい訓練になる。

以上一例を紹介した。生活者や社員も日々経験を積んでゆき、新しいサービスも続々と生まれてくる。企業も面々と変革を続けてゆく。ポリシーは策定するだけで終了ではない。運用の過程で綿々と見直し・改善してゆくことも必要だ。