「ソーシャルメディア・ポリシー」を構成する3つのガイドライン

先月、NECソーシャルメディア・ポリシーを公開した。国内でもポリシー策定の動きが目立つようになってきた。ソーシャルメディア・ポリシーは企業のソーシャルメディアに取り組む姿勢を規定し、実践を表明するものであるから、すべての企業の業態、体制等によって内容は異なる。 また一企業からみても、サービスを享受する一般生活者と従業員では、関心を持ってもらいたい内容も随分異なる。彼らの行動を制限する企業が権限も違う。更に従業員の中でも、業務としてソーシャルメディアに参加する従業員とそれ以外の一般従業員では、期待する役割も大きく異なる。このように考えると、ソーシャルメディア・ポリシーを構成するガイドラインは、少なくとも次の三種類が必要になってくる。
1.生活者を対象とした「コミュニケーション・ガイドライン
2.一般の従業員を対象とした「社員活用ガイドライン
3.業務としてソーシャルメディアに参加する運用チームを対象とした「チーム運用ガイドライン

【図 ソーシャルメディア・ポリシーを構成する3つのガイドライン
今回は、其々のガイドラインの作り方を紹介する。

1.「コミュニケーション・ガイドライン
対象は、生活者、企業の外部関係者。彼らに、企業がどのような意図でソーシャルメディアを活用しているのか、考えを表明することが主たる目的だ。様々な立場の人に参加を呼びかけ、参加する際の注意するべきポイントを提示する。とりわけ強く呼びかけたい相手に対しては個別に運用方針を説明することもある。インテルでは、Intel Sponsored, Seeded or Incentivized Social Media Practitioner Guidelinesとして、企業から報酬を得て製品記事を投稿するブロガー、モデレータに向けたガイドライン・ページを特別に用意している。

【図_インテルの報酬を受けているソーシャルメディア専門家向けガイドライン(日本語版)】

この背景には、米連邦取引委員会(FTC)が2009年12月から施行した「推奨広告と証言広告の利用に関する指針」がある。「報酬を受け取ったり、商品を無料で提供されて口コミ記事を記載した場合に、その旨を明示することを義務付けた」ルールだ。違反すると罰則も有る。日本でも今年になって、大手広告代理店などが参加する「WOMマーケティング協議会」が自主規制を打ち出している。企業がこのような方針を表明しておけば、仮に投稿者が報酬を受け取っていることを明示せずにクチコミ投稿をしても、企業が一体となって意図的に隠蔽していないことを明らかにできる。
 この他にも、例えば派遣会社であれば契約期間を終了して、会社との関係がなくなった元派遣社員に対して、契約時の派遣先の情報を投稿することを禁止する要求を掲載すること等が想定できる。総じて派遣契約書に派遣期間後の守秘義務の遵守が明記されているだろう。しかし、投稿されてしまえば、当人を叱責しようが、取引先に迷惑がかかった事実を消せはしない。企業としてできることは、その予防に努めることと、事後対策を準備しておくことだ。予防の有効な手段は、常日頃から様々な人と良好な関係を築いてゆくことだ。ソーシャルメディアを通じて円滑なコミュニケーションを維持できれば、リスクも軽減できるだろう。
 また、企業の内部事情を知らない人に対して、企業が正式に承認しているインタフェース(ソーシャルメディアのアカウントやマイページなどのURL)を一覧表示することも誤解を招かないためにも、効果的なコンテンツだ。
当社では、こちらで公開している。
2.「社員活用ガイドライン
 業務としてソーシャルメディアに参加していない社員にも、ソーシャルメディアをよく理解してもらうことが目的だ。ミクシーは使っていなくても、アマゾンで書評を読んだり、カカクコムで商品のクチコミ情報をチェックしたことが一切ない社会人は、既に少数派だ。チェックしていると会社に関係のある「様々な情報」に遭遇し、大きなビジネスチャンスに出会ったり、大変なリスクに気づくもともあるだろう。親切心から、悩んでいる人に、自らの業務知識を提供してフォローしてあげたいと考えるかもしれない。こんな時に、「企業の考え方」「参加時の心構え」「困った時の相談先」を用意されていれば、拠り所として対応ができる。なにも用意がなければ、「余計なことはすまい」と折角の機会を放棄することにもなるだろう。このガイドラインは、社員の理解を深めることが重要なので、教育制度と連動することも多い。以前紹介した、米国のメイヨークリニックでは、パワーポイントのテキストを用意して、勉強会を開いている。同時にホームページにも社員向けのガイドラインを掲載している。また、大規模な企業においては、ガイドラインを周知させるには膨大なコストがかかる。ホームページに掲載しておくことで、社員は何時でも内容を確認できる。また、社外の人の目に触れても、特に隠し立てするような内容でもない。むしろ、企業が社員にどのような指導をしているかを理解してもらう機会にもなる。企業の透明性のアピールにも一役買っている。
3.「チーム運用ガイドライン
 業務として、企業の代表としてソーシャルメディアに参加する人達向けにガイドラインを用意する。目的は、「リスクを最小化しつつ、積極的にソーシャルメディアを利用するための行動基準」をメンバーに浸透させることだ。基本的に社内の業務フローマニュアルに近い性質を持つので、外部に公開されている事例は乏しい。
 一般の従業員と同様に「参加時の心構え」を定義するが、企業を代表して発言している自覚を促す項目が追加される。「チーム運用ガイドライン」のメインコンテンツは、「運用ルール」だ。以下に(インタフェース別)、(共通認識)、(例外対応)の3つに分類して内容を説明する。

(インタフェース別)
例えば、ツイッターであれば、1日のツイート回数やフォロー返しの方針、ツイート内容などのルールを決める。ブログであれば書き込まれたコメントへの対応方針などを定義する。前稿「あっちゃん(オリエンタルラジオ)に学ぶ Twitter 運営ポリシーの作り方」で紹介したように、運用ポリシーについては、一部の方針を「コミュニケーション・ガイドライン」の運用方針に盛り込むことで、生活者にも運営スタイルを理解してもらえるだろう。マイクロソフトソーシャルメディアポリシーでは、"Tweeting Guidelines(マイクロブログ)"と"Blogging Guidelines(ブログ)"の2種類のソーシャルメディアの運用方針をQ&A形式で紹介している。

(共通認識)
また、「運用ルール」にはインタフェースによらない共通の規定も求められる。
例えば「開示してよい情報」「チームの判断で対応出来る範囲」などを定義する。「開示してよい情報」には、従業員の氏名や所属などの個人情報・取引先の情報、新製品の情報や財務データなどの公開基準を定義する。例えば「ホームページでも公開されている情報は公開して良い」、「社内イントラネットの特定のエリアに掲載された製品情報は公開して良い」といったルールを設けることが考えられる。
「チーム判断で対応出来る範囲」では、例えばクレームが投稿された際に返金や謝罪について、どのレベルまでは運用チームで判断・行動していいかを企業がコミットする。

(例外対応)
上記は、常に生活者と退治している運用チームが、迅速に、ストレスを少なく対応するために大変大切な項目だ。しかし、ソーシャルメディアは「なまもの」。どんな現象が起きるか分からない。運用チームが独自で判断出来る範疇を超えた場合の対応方法を、予め想定しておく必要がある。炎上事件が起きても、迅速な意思決定ができる/できないで、その後の状況に大きな影響が生まれる。過去に発生した炎上事例を題材に勉強会を開くことも、よい訓練になる。

以上一例を紹介した。生活者や社員も日々経験を積んでゆき、新しいサービスも続々と生まれてくる。企業も面々と変革を続けてゆく。ポリシーは策定するだけで終了ではない。運用の過程で綿々と見直し・改善してゆくことも必要だ。