フリーミアムモデルを棄てるNingの対話型プレスリリース

■Ningの決断
2010/4/15、Ningはこれまで無料で提供していたSNS提供サービスを有償化する発表した。日本ではあまり知られていないが、Ningを利用して作られたSNSは200万件を超える。米国を中心に学校などの教育機関非営利団体のコミュニティとして幅広く活用されている。Opensocialの推進でも中心的な役割を担っている。Ningのサービス詳細は「100万以上のコミュニティを抱える ning のアプリ戦略」に記事があるので参考にしていただきたい。
無料で利用する多数の利用者と、有料でプレミアムサービスを使用する少数(といっても数万社)の利用者が共存するフリーミアム・モデルだ。
決してサービスが活性化していないわけはない。Alexaでみてもトラフィック自体は堅調に推移している。

【図】Ningのトラフィック推移(Alexa)
今回の発表は、CEOの交代から1ヶ月のタイミングとの従業員を167名から98名に削減する同時発表している。今や、全世界で4億人を超える利用者を抱える「facebookのFan Page」でコミュニティで用意したい機能の大半は実現できる。「Googleグループ」でもそれなりのコミュニティは構築できる。いかに200万件ものSNSを抱えるNingでも、億単位のアカウントを持つgooglefacebook相手に同じ無料サービスでは、優位性を発揮できない。
日本国内でも、同様に無料でSNSを開設できるサービスを提供しているSonetSNSが2010/3/31をもってコミュニティの新規開設を停止した。6/3にはサービス自体を完全に終了させると発表している(http://www.so-net.ne.jp/sns/close/)。
このような状況であるので、NingがFan Pageに満足しないグループにターゲットを絞り、プライベートSNSを有償で提供するモデルに特化する意図はよくわかる。
また、無料サービス終了を伝えるCEOのブログには、
・既に数万ものプレミアムサービスを利用している会員がいること
・彼らが全体のトラフィックの75%を占めていること
が書かれている。
コストを落として有償サービスに踏みきれば、勝算があるとの思惑が伺える。

【図】CEO ローゼンタール(Jason Rosenthal)のブログ


■対話型プレスリリース
 無料サービス終了のプレスリリースは、ホームページのリリースページには掲載いされていない。オフィシャルブログで ローゼンタールCEOのメッセージが伝えられている。"An Update from Ning"タイトルの、記事がそれだ。ブログなので誰もがコメントを書き込める。寄せられたコメントは現時点で456件に及ぶ。Topsyで確認すると、ツイッターでも312件もツイートされている。おそらく、どのような表現でリリースしても、質問やクレームが押し寄せることは必至だ。ブログであれば、そのコメントと回答によりFAQをつくることもできる。
それほど多くないが、ブログの寄せられたコメントに、ローゼンタールCEOが返信している例も確認できる。facebookのFan Pegeでも告知され、対話がなされている。

【図】facebookのFan Pageでサービス終了の告知に寄せられたコメント
ツイッターの公式アカウントでも、多数の対話をしている。
アカウント宛のメッセージでなくても、今回の件について関心を寄せているユーザには、自発的に返信を試みている。それでも、いろいろな噂が広まった。このため、4/20にはオフィシャルブログでは、噂を払拭させるためのブログがポストされている。ポストしたのは、クリエータ(Ningの利用者)の支援担当副社長のジョンマクドナルド氏。以下のような内容だ。
噂その1 「プレミアムサービス(有償サービス)に移行しないコミュニティーは一切を5/4の発表をもって一切利用できなくなる」
(回答)そのようなことは、ありません。少なくとも10週間の移行措置をとります。5/4には料金体系の詳細をアナウンスする予定です。
噂その2 「新しい料金体系では、大規模なネットワークだけが優遇される」
(回答)そのようなことは、ありません。もちろん既存の有料サービスを利用されている方々にも喜んでいただける料金体系にする予定です。
噂その3 「今回の変更は、教師や非営利団体をサービスから締め出すことが目的だ」
(回答)そのようなことは、ありません。ずっと使い続けてもらえるように教師や非営利団体向けのオプションサービスを用意する予定です。
教師や非営利団体向けの優遇措置も配慮されることが予告され、既存利用者にとって不利になる料金体系を提案するつもりでないことが感じ取れる。
リエータがディスカッションできるコミュニティも用意されている。利用しているクリエータは12,000人。こちらでもローゼンタールCEOをはじめ経営陣のマイページが用意されている。クリエータ(Ningの利用者)の支援担当副社長のジョンマクドナルド氏が積極的にコミュニティに参加している。

【図】クリエータ向けコミュニティーサイト
ログイン・アカウントを持たない人にもオープンだ。クリエータと企業がどのような会話をしているかを誰もが確認できる。比較的、Ningの新しい施策に理解を示すコメントが多いように見受けられる。

このように、Ningは手を尽くして利用者と対話をしている。発展的な方針転換であるからこそ、しずかにサービスを切り替えるのではなく、積極的に顧客との対話に務めているのだ。その対話で得た「気づき」をもとに軌道修正したこともあるだろう。

しかし、twitterの世界でのネガティブ・ポジティブ評価ができるtweetfeelでみれば、75%ネガティブの意見だ。恐らく5/4の新サービスの料金体系発表までは、傾向は変わらないであろう。

【図】NINGの評判(ネガ・ポジ判定結果)

2009/1には、ポルノ禁止を打ち出して、一時的にはサービス利用者を失ったが、復活した実績もある。今回の方針転換がNingの存在感を高めることになるかもしれない。