ベストバイの Twitter 活用術(後編)〜従業員2,100人が、たった1つのアカウントで生活者と対話する

今回は、前回の「ベストバイの Twitter 活用術(前編)〜従業員2,100人が、たった1つのアカウントで生活者と対話する」の続編として、ベストバイの顧客対応用 Twitter アカウント@twelpforce の利用実態をレポートする。

@twelpforce では、多数の従業員がひとつのアカウントで配信が可能だ。これを実現するために、ベストバイは ConnectTweet を活用している。

Connecttweet
ConnectTweet は、あらかじめ登録した複数のアカウントから特定のハッシュタグを含む Tweet をひとつのアカウントから自動的に ReTweet(RT)するサービスだ。具体的なツイートの流れを説明しよう。

(1)生活者から@tweplforce に質問が入る。社員向けの運用ガイドでは、twelpforce 宛の Tweet をチェックしやすくする方法を紹介している。
(2)質問に気づいた従業員は、自分のアカウントから@返信をするが、Tweetハッシュタグ“#Twelpforce”を付与する。
(3)ConnectTweet はハッシュタグを削除して、“via 配信元のアカウント”を最後に付与した Tweet を配信する。

図に、具体的な Tweet の例を示す。

ConnectTweet を活用した Tweet の流れ

従業員が twelpforce に参加する際には、BestBuyConnect から利用登録をする。従業員番号と Twitter アカウントなどを登録すれば参加できる。恐らく、2,100名分のアカウントが登録されているのだと考えられる。

ソーシャルメディア・ガイドラインには次のような「従業員の参加規約」が定義されている。

・対象は、nonexempt employee(米国公正労働基準法の対象。時給で働き週40時間以上働くと時間外手当が支給される被雇用者)。
・参加する際には、上長の許可を受けること。就労時間内に twelpforce の関係業務(生活者からの問合せ内容の確認、返信文章の作成など)は、業務として評価する。
・就労時間外については、上長の許可がない限り、自主的な行為とみなす(時間外勤務と認めない)。同時に時間外の twelpforce 対応については、勤務評価の対象とはしない。
・内容やプロフィール情報などはすべての人に見られている。この前提を理解して運用すること。不都合に思う人は、twelpforce 用とプライベート用とは別々のアカウントに用意することを勧る。また、他の従業員や生活者の個人情報を Tweet しないこと。
・会社に損害を与えるような発言をしないこと。

以上のように、明確に twelpforce 対応を労働として認める範囲を定義するとともに、個人情報を漏洩しない配慮を求めている。

実際の Tweet 内容を見てみよう。採取した Tweet は、2010年2月4日〜3月21日までの3,520件。この間、発信されたアカウントは79件。

内訳は以下の通り。

・従業員:67件
・店舗アカウント:8件
・その他(現在は利用されていない):4件

少なくとも調査した期間においては、発言したアカウントはこの程度にとどまる。2,100アカウントの約3%だ。また従業員の67件の中には、geeksquad.com 所属のメンバーのアカウントが26件存在する。

geeksquad.com は、コンピュータやテレビ、ビデオ、ゲームなどの修理や導入をする組織だ。24時間365日でオンラインの相談を受け付けたり、オンサイトの作業も請け負う。メンバー(エージェント)は主に店舗に所属する専門知識や経験を持った優秀な従業員だ。

geeksquad.com
発言したアカウントを「社員(geeksquad.com 所属メンバーを除く従業員)」「geeksquad.com 所属メンバー」「店舗」「その他」に分類して、アカウント数ベースと数ベースでの構成比をグラフ化してみた。geeksquad.com 所属アカウントは、アカウント数で全体の33%、Tweet 数では実に半分以上を占める。

もっとも多く発言しているアカウントと2番目のアカウントは、それぞれ@agent3012(Derek Meister 氏)の816件と@Agent3321(Samuel Riojas 氏)の568件だ。2名とも geeksquad.com のメンバーだ。2名だけで@twelpforce の全 Tweet 数の3分の1以上を占める。

Derek Meister 氏は、最近もテレビ番組に出演し「携帯電話が水に浸かった場合の対処方法」を説明している。チームの中でも知名度が相当高そうだ。約45日におよぶ当該期間で10件以上の Tweet をしているのは28アカウント。

そのうち、geeksquad.com のエージェントが11名だ。twelpforce は24時間365日対応可能な geeksquad.com の優秀なエージェントチームの存在なくしては成り立たない。彼らがいるからこそ、休日・昼夜を問わず、顧客からの問合せに迅速に回答することも可能だ。

彼らには、積極的に返答するインセンティブがある。

Virtual Agents の一覧表

geeksquad.com には、エージェントの紹介ページでは、90名程度が紹介されいる。「オンライン」、「ビジー」、「オフライン」といった現在のステイタスも一目瞭然だ。24時間365日を謳っているだけあって「オンライン」のエージェントがいない例はまだ見たことがない。応対も迅速だ。質問されて、ほんの数分で回答するケースもみられる。また、エージェントの詳細ページに遷移してみると、各人が提供するサービスメニュー表が掲載されている。

AgentJK のサービスメニュー

例えば、30分の Windows7のベーシックトレーニング(30分)は49.99ドル、60分のアドバンストコースでは79.99ドルとなっている。左側には、顧客の評価や実績もかなり詳細に掲載されている。恐らく twelpforce に問い合わせをしてくる利用者は、絶好の見込み客になるであろう。対応内容は、エージェントの人気にもつながるだろう。彼らは twelpforce を使ってセルフブランディングを試みているわけだ。

次に、問合せに対するやり取りをみてみよう。ひとつの問合せに複数のアカウントから回答するケースも結構ある。図に示した事例でベストバイで購入した GPS を盗難された顧客が「部分的な保証がつく方法」を問い合わせている。

複数のアカウントからの解答例

「最寄のカスタマーセンターに領収書をもっていくこと」を2名がほぼ同時に答えている。他にも「ベストバイでは、paypal が使えますか?」といった質問には、3名から一斉に Yes の回答が返信されている。このような技術的な専門性のない質問については、重複の回答が目立つが、多くの専門的な質問においては、はじめに回答した人が継続して対応しているようだ。

アカウント間の連携プレーのようなものがあるかとも期待したが、そのような例は見当たらなかった。唯一、2月初旬にスタッフの1名が「自分で解決してください」といった、ぶっきらぼうな回答に対して、他のスタッフが丁寧にフォローしている例があった程度だ。質問者が混乱しないように複数名で回答しないように心がけているのかもしれない。また、従業員自身が質問を投げかけている例も何件か見られた。

FAQ サイトの BestBuyCommunity には、twelpforce というスレッドが存在する。

BestBuyCommunity の twelpforce スレッド
ここで、Twitter 上でやり取りされた内容の一部が掲載されている。FAQ のコンテンツとしても活用されている。また、Facebookファンページのナビゲーションバーにも、twelpforce のタグが用意されている。タイムラインが確認できる。

また、ベストバイのアイディア募集サイト IDEAX では、“twelpforce”というタグが存在する。ここで、twelpforce の活用アイディアを生活者、社員が入り交じって議論している。生活者から「EC サイトの買物カゴの横に“twelpforce”ボタンを用意したらどうか?」といった提案もなされている。

IDEAX の twelpforce
日々、生活者からの質問に対応し、アカウントの告知に務めながらも、その活用方法については、今も試行錯誤を続けている。